恐竜の話題(論文紹介): (48) 同じ年ごろどうしで群れる ~ジュラ紀前期、竜脚形類の営巣地

2022年1月3日月曜日

(48) 同じ年ごろどうしで群れる ~ジュラ紀前期、竜脚形類の営巣地

ムスサウルス、集団の中で生まれ育つ

恐竜がこれから大繁栄を迎えようという、中生代ジュラ紀前期。この頃の地層の中で卵から成体までの単一種類の恐竜の化石を多数含む営巣地の跡が見つかっています。さらにそこでは同じような年ごろの恐竜たちが群れていたということもわかってきました(文献1)。これらの恐竜は、やがてアパトサウルスやディプロドクスなどの地上最大の巨体をもつ首の長い竜脚類(sauropod)たちをうみだすことになるグループ、竜脚形類(sauropodomorph)に属する植物食恐竜です。恐竜進化の比較的早い段階でのこのような形の集団生活が、彼らの子孫繁栄の一因となったのではないかと考えられます。

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南アメリカパタゴニア、ラグナコロラダ累層(Laguna Colorada Formation)のこの営巣地の主(ぬし)であった恐竜はムスサウルス(Mussaurus patagonicus)(文献2、3)。1970年代に発見されている竜脚形類恐竜です。この地でこれまでに得られていたものと合わせて80体の化石がそろいました(文献1)。今回はさらに100個以上もの卵の化石が掘り出されています。卵の内部が表面に露出している標本の他に、X線走査による観察で胚の骨格が確認できたものもあります。少なくとも1平方キロメートルの領域が繰り返し営巣地として使われた形跡が残っており、地層の年代は1億9300万年前のものと判定されました。   

推定体重100グラムの幼体から1.5トン程度までのさまざまな成長段階にあるムスサウルスの骨格が見つかりましたが、それらの位置は産卵箇所そのものからは外れています。のちの巨大な竜脚類と同じく、産卵後の親は卵に接しての世話をしていなかった様子です(話題27)。ムスサウルスは孵化直後はおそらく四つ足で、そして成長するにつれ、後足で歩行すると考えられています。成長とともに相対的に後足が大きくなる一方、頭部や前足は小さくなり、体全体の重心が後方に移動するという体形の変化があるのです(文献3)。
これら異なる体格の化石の分布状況が詳細に発表されています。中にはくっつくように残っていた同じような体格の成体の骨格もあります。11体からなる8〜10キログラムのまだかなり若い個体ばかりの密な集団は特に注目されました。その個々のポーズや表面の微生物の活動の名残りから、彼らは皆同時に、短い時間の間に埋まってしまうような災難に遭遇したらしいのです。こうして、産卵場所を含む一帯に同じ年頃どうしの集まりをいくつか作っていたということが明らかになりました。

恐竜の産卵場所は白亜紀後期のものが多く報告されており、それよりも古い時代の発見例となると極端に少なくなります。それでも、ジュラ紀前期という、営巣地の報告の中では今のところ最も古いこの時期に、このムスサウルスの産卵場所以外に2例が知られています。その主はともにムスサウルスと同じ竜脚形類の仲間で、体型や大きさ(成体で6メートル程度)も似ています。     
ひとつはマッソスポンディルス(Massospondylus)(文献4)の卵の中の胚から成体までの骨格が見つかった南アフリカ、上部エリオット累層(Upper Elliot Formation)中の営巣地跡。この恐竜もムスサウルスと同様、成長にともなって4足歩行から後足での2足歩行に移行すると考えられています。営巣地には多数の小さな足跡が残っており、孵化した幼い恐竜は少なくとも足裏の大きさが2倍になるまではそこにとどまっていたらしい証拠があります。
もうひとつは200以上の胚の骨格片(文献5)が見つかった中国、下部ルーフェン累層(Lower Lufeng Formation)。こちらは孵化前の骨格だけですが、ルーフェンゴサウルス(Lufengosaurus)(文献6)のものとみられています。骨格の内部構造は胚が大変早い成長速度で孵化を迎えたことを示しています。おそらく孵化後も早い成長を続けて急速に体を大きくしたと思われます。
これら3種の竜脚形類恐竜の卵の殻は大変薄いことが最近の分析で明らかになりました(文献7)。多くの化石が残っている中生代後期の恐竜の卵とは大きく異なる特徴です。彼らの営巣地はいずれも大水の際には池や湖が広がることが繰り返されていたような地域にあり、一帯はその地形や地面の状態が産卵そのものに都合が良いだけでなく、周囲には食べ物となる植物にも恵まれた、恐竜たちにとってお気に入りの場所であったようです。そして、この土壌などの特性が殻の薄い卵をうまく化石化できていたとも考えられています(文献7)。

群れでの暮らしは一般に捕食動物から身を守る点で有利であり、現在の大型草食動物で普通にみられることです。ジュラ紀中期の竜脚類が群れで行動したことは間違いないとされる証拠についての報告は以前からありました(文献8)。最近の営巣地の発見は、少なくともある種の竜脚形恐竜がより古い時代から産卵場所で群れを維持していたことを示します。

中生代も白亜紀後期となると、獣脚形類とは別の系統の恐竜になりますが、現在の鳥類のように卵に接しての細やかな行動があったことが知られています。オヴィラプトロサウルス類やトロオドン類については、巣の中で露出している卵を親が上から覆っていたことを示すいくつかの例が有名です(話題4527)。大型のオヴィラプトロサウルス類(大きなものでは推定1.5トン)になると、親が自らの体重で卵をつぶしてしまわないよう、巣の中心部分に座った親の周辺に卵をぐるりときれいに配置していました(文献9)。
竜脚形類の場合はこのような抱卵という直接の卵の世話ではなく、産卵済みの卵のある場所には立ち入らずその近くで群れをつくるということになります。産卵後は親が自分の卵や孵化後のこどもを直接世話し続けることがないと考えられてはいるものの、産卵場所周辺に群れがいれば幼い命への外敵の手出しは容易でないでしょう。さらに、ムスサウルスの営巣地では、同じような成長段階の個体どうしの集まりがあったことが確認できました。成長にともなって体の大きさのみならず、歩行方法も変化するようなこれらの恐竜では、同じ年ごろの仲間で行動をともにすることは大きな利点があったと思われます。親子の家族単位でなく、群れの共同体の中で生まれ育つという竜脚形恐竜の一生が見えてきました。

竜脚形類は中生代三畳紀後期2億3千万年くらい前にはすでに出現し、三畳紀とジュラ紀の間の大量絶滅(話題3839)を乗り切り、その後の大繁栄の中から竜脚類が出現します。繁栄の要因となったと考えられる歩行方法の変化、体の巨大化、さらにこれにともなう雑食性から完全な植物食への食性の移行は、三畳紀のうちにその基礎ができていたようです(文献10)。三畳紀後期の竜脚形類の進化の様子を伝える化石の例は少ないのですが、マクロコルム(Macrocollum)のような新たな報告も出てきています(文献11)。この恐竜は首が長いという特徴をこの時期にすでにもっていたうえに、複数個体の骨格がまとまって見つかったことから、集団生活の習性も古い時代から獲得していたようです。また、ムスサウルス、マッソスポンディルス、ルーフェンゴサウルス、これら3種の竜脚形類恐竜の先祖は三畳紀後期の中頃までには進化の道筋上で分岐していたと考えられるため、集団での営巣、産卵の習性も三畳紀後期のうちに共有されていた可能性が高くなりました。竜脚形類が三畳紀末の大量絶滅を乗り切り、ジュラ紀での大繁栄をもたらした要因のひとつがこの習性であったかもしれないということです(文献1)。

文献
1: Pol, D. et al. (2021). Sci. Rep., Vol.11, 20023.
2: Pol, D. and J. E. Powell (2007). Hist. Biol., Vol. 19, 125.
3: Otero, A. et al. (2019). Sci. Rep., Vol. 9, 7614.
4: Reisz, R. R. et al. (2012). Proc. Natl. Acad. Sci., Vol. 109, 2428.
5: Reisz, R. R. et al. (2013). Nature, Vol. 496, 210.
6: Young, C. C. (1941). Palaeontol. Sinica New Series C, Vol.7, 1.
7: Stein, K. et al (2019). Sci. Rep., Vol.9, 4424.
8: Coria, R. A. (1994). Gaia, Vol. 10, 209.
9: Tanaka, K. et al. (2018). Biol. Lett., Vol. 14, 20180135.
10: Apaldetti, C. et al. (2021). Sci. Rep., Vol.11, 22534.
11: Müller, R. T. et al. (2018).  Biol. Lett. Vol. 14, 20180633.  

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