恐竜の話題: (38) ペルム紀/三畳紀、三畳紀/ジュラ紀の大量絶滅 ~恐竜の繁栄の前におこった二度の大量絶滅

2017年9月27日水曜日

(38) ペルム紀/三畳紀、三畳紀/ジュラ紀の大量絶滅 ~恐竜の繁栄の前におこった二度の大量絶滅

ペルム紀/三畳紀境界、三畳紀/ジュラ紀境界の大量絶滅 + 現代は6度目の大量絶滅期?



古生代の終わりから中生代の幕開けとなる2億5千万年前の地質時代の境目。そこでは地球の生命史の中で最大規模といわれる大絶滅を引き起こした環境異変がありました。恐竜はこの大量絶滅の後に初めて姿を現します。その後、中生代前期の終わりにも別の大規模な絶滅が発生しています。恐竜が繁栄を迎えるのはこの中生代の前期に改めて地球を襲った絶滅の後からです。恐竜の進化と深い関係にあるとみられる二度の大量絶滅の原因となった環境異変とは、どのようなものであったのでしょうか。

地球の生命史で過去5回あった特に大規模な大量絶滅


地質時代の時間スケールの中で比較的短期間に、非常に多くの生物が絶滅することがこれまでに何回もありました。特に大規模なものは時代が古い順に次の5つがあり、ビッグファイブと呼ばれています(文献1)。

   オルドビス紀/シルル紀の境界(古生代)
   デボン紀後期(古生代)
   ペルム紀/三畳紀の境界(古生代と中生代の境界)
   三畳紀/ジュラ紀の境界(中生代)
   白亜紀/古第三紀の境界(中生代と新生代の境界)

[ 図1] 地質年代とビッグファイブ大量絶滅 (新原生代以降の地質時代を示しています)

恐竜は古生代と中生代の境目であるペルム紀から三畳紀への移行期の大量絶滅の後に出現します。中生代に入ってからは、三畳紀/ジュラ紀の境目で、これまたビッグファイブのひとつに数えられる大絶滅が地球を襲います。恐竜の繁栄が明らかになるのはこの三畳紀/ジュラ紀の大絶滅のあとです。この二度の大量絶滅と恐竜の出現について、今回と次回の2回にわたって概観してみます。
また、今回は最後に太古の気候を知るための方法や現代の地球温暖化についても触れます。 

【1】ペルム紀/三畳紀境界の大絶滅


大量絶滅のビッグファイブのなかでもペルム紀/三畳紀境界の出来事は、姿を消した生物種の多さから最大規模のものであったとされています(文献1 ~ 6)。化石の記録から、海洋の動物の種(しゅ)では80~96%、地上の脊椎動物の種では70%が絶滅したともいわれています(文献5)。絶滅のレベルを数値で出すのは困難です。いくつかの限られた地層から得られるデータをもとに当時の地球全体の様子を推定しなければなりません。大絶滅の時期以外にみられるバックグラウンドの絶滅の程度の見積りや対象とする期間なども問題になります。文献3はペルム紀後期開始時点から数えると、分類上の属のレベルで海洋の78%の生物が三畳紀の始まりまでにいなくなったとみています。バックグラウンドの絶滅を考慮した研究では海洋の全生物の種のレベルで81~85%が消滅したという数値が出されています(文献6)。
この時期の様子を知るサンプルは当時の海底の堆積物からのサンプルが多いものの、明らかに陸上の脊椎動物にも絶滅を引き起こした形跡は断片的に得られています(文献4、7)。しかし、陸上の四足の脊椎動物全般については、大量絶滅時期とされている前後の限られた期間での種類と数の変動の全容をとらえるだけの化石情報を得るのは無理があります(文献8)。陸上植物も絶滅の複数の証拠があるものの、地球上のあらゆる場所で異変の同時進行があったのかについては懐疑的な見解があります(文献3)。
数値の細かなところはともかくも、ペルム紀終盤から三畳紀にかけて生態系を一変させる大規模な環境変化が起こったことは確かです。しかも、この時期の大量絶滅は回復に非常に長い期間が必要であったのが特徴です(文献2、4、5)。陸上植物に由来する石炭が再び現れるのはペルム紀/三畳紀の境界から数百万年も経った頃の地層からであり、海洋のサンゴの復活はさらに遅れます(文献5)。いったいどのような異変が起こったのでしょうか。 


[ 図2 ] ペルム紀後期~三畳紀初期のパンゲア大陸とシベリアトラップ(大規模噴火によってできた台地玄武岩の区域)

シベリアでの大規模噴火(ペルム紀/三畳紀)


ペルム紀/三畳紀境界は今から2億5千万年前の地層に存在しています(文献9)。
この時期の前、ペルム紀の終期からは後述のように、地球全体の環境に大きな変動がおこり始めました(文献3、7,10)。また、この境界形成時と地質学的にはほぼ同時期に現在のシベリアにあたる地域で大規模な噴火がおこったことも知られています(【図2】、文献11、12、13、14)。この噴火(そして同じような時期におこった他の噴火(文献10)も)が地球環境の大きな異変、そして大量絶滅の引き金となったというのが一般的な説明となっています。

当時の地球はパンゲア(Pangea)という巨大な一つの大陸(超大陸)が広がっていました(文献15)。パンゲア大陸北部で起こったこの噴火は特定の火山の単発的な活動とは規模がまったく異なったものでした。爆発的な噴火もあったのは確かなものの、大きな特徴は地下から膨大な量の溶岩が洪水のように流れ出して地表の広範囲に台地玄武岩(flood basalts、洪水玄武岩)を形成するという活動にありました。
このようなスケールの大きなタイプの噴火は地球深くのマントル層からの上昇流(ホットプルーム、hot plume)が大量に地表に到達した結果、生じるのではないかと考えられています。このタイプの大規模火山活動は地球の歴史上、何回もおこりましたが、シベリア台地玄武岩の形成にかかわったこの時の噴出はその中でも非常に大きな規模のもので、活動期間は百万年にも及び、生じた面積160万平方キロメートルの広がりをもつ玄武岩の台地の容積は推定数百万立方キロメートルに達します(文献2、11、12)。地表に広がった溶岩の区域は一般には巨大火成岩岩石区(large igneous provinces)と呼ばれ、シベリアのこの岩石区にはシベリアトラップ(Siberian traps)という名がついています。

火山噴火がもたらす環境への影響にはさまざまなものがあります(文献14)。シベリアトラップを形成するような大規模で長期にわたる噴火の場合、一般に噴火直後の二酸化硫黄による温暖化のあと、酸性雨、オゾン層の破壊がおこると考えられています。次いで 長期間浮遊する塵による太陽光の遮断に起因する大気の冷却が出ます。最後に二酸化炭素は温暖化作用をもっており、これは非常に長期間持続します。百万年程度の長い期間にわたって活動し続けた大規模噴火の影響は大きいはずです。しかし、この長い噴火活動期間中、大絶滅のイベントのピークは大変早いうちに起こっています(文献9、10)。こうした噴火の比較的直接的な影響だけで大量絶滅がもたらされたのかどうは、これから述べるように疑問視もされています。噴火がきっかけとなって、その後の長い期間の中で次々といろんな異変が引き起こされたのではないかと考えられています。

二酸化炭素、メタンによると考えられる温暖化


ペルム紀後期からは地層のサンプルに含まれる炭素の同位体の比(後述)が大きく変動していたことが多くの研究から明らかになっています(文献6、10、16)。これは地球表面での炭素の循環に異変がおこったことを示しています。

文明社会の中にある人類がまだ経験していない大規模噴火には、広大な陥没カルデラを形成するような単独の超巨大火山噴火もあり、その場合には火山灰による厳しい冷却効果が想定されています。しかし、溶岩台地を形成するタイプの噴火ではそのような噴火とは比較にならない長い期間続く活動により、地下から放出されるガスの量が膨大なものになります。
その中でも温暖化作用をもつ二酸化炭素の放出が特に問題になります。一時的には噴火の塵による冷却がみられた時期もあったものの、より長期的には地球全体の温度が上昇したことが酸素元素の同位体比(後述)を調べることによってもわかっています(文献17)。

これほどまでの規模の噴火であっても、地球温暖化で多くの生物の生存が脅かされるほどの量の二酸化炭素が放出されたわけではないとの推定があります(文献18)。ただし、この噴火の噴出物の組成によっては放出された二酸化炭素の量は現在の大気中での存在量の数十倍に達する可能性もあり、そうであるならば環境への大きな影響があります(文献14)。しかし、このシベリア噴火の開始時期は大量絶滅の時期と地質学的にはほぼ同時です。大量絶滅が急激に進んだことを考えると、二酸化炭素だけを原因とするのでは説明がつかず、メタンの大量放出が引きおこす環境の大きな異変がおこったというのが有力な説です(文献18)。
多量のメタン、二酸化炭素、その他の温暖化ガスはマグマが直接にシベリアの地中の石炭層や有機物の多い泥岩に到達したことにより、発生した可能性があります(文献19、20)。また、二酸化炭素による温暖化がやがて凍土と海底のメタンハイドレート層(低温、高圧のもとでメタンが水と一緒に個体になっている)からのメタンガスの大量放出につながったという説明も可能です(文献5、10)。メタンは二酸化炭素よりも強力な温暖化作用をもっています。また、海中や大気中で酸化され、二酸化炭素を生み出します(文献21、22)。この状況は暴走的な温室効果(runaway greenhouse effect)をもたらすことになります。
メタンの放出には別の説もあります。大規模噴火により地下から供給されたニッケルなどの金属がこの頃に新たに出現していたメタン産生をおこなう微生物の活動を助け、その大増殖によって生じたメタンの大量放出が温暖化などの環境異変につながったというものです(文献23)。

温暖化は相当に進んだと考えられています。ペルム紀後期の炭素循環の大きな変動が始まる前の赤道直下の海面での温度は26~29度くらいであったのが、その後に35~36度に上昇、三畳紀には40度近にもなった時期もあったのではないかとも予想されています(文献17、24~27)。

ペルム紀/三畳紀の大量絶滅の原因を天体との衝突に求める説も以前からありますが、この時期の衝突の証拠とされているデータは一般には否定的にみられています(文献2、4)。天体衝突のショックでメタンハイドレート層の崩壊や火山噴火につながったという考え方もあるのですが(文献18)。

低酸素状態の証拠も


陸上では二酸化炭素を取り込んでいた森林が大規模な火災にみまわれた跡があります。さらに酸性雨などの影響もあり、森林の消失と表土の流出が進んだとされています(文献28)。
さらに二酸化炭素やメタンによる温暖化が進むと大気と海洋の酸素濃度が低くなってしまいます(文献21、29)。海洋の酸素量が大変低い状況でできたこの時期の堆積物が複数の場所で見つかるという証拠も得られているため、大量絶滅の要因には酸素の濃度も低くなったこともあげられています(文献16、28、30~34)。
特に深刻な海洋での酸素不足の原因としては、ひとつには温度が高くなると海水への酸素のとけ込みが悪くなるということがあります。さらに注目すべきは海流の動きが悪くなるということです。極地の海水が冷却されて沈む作用は海流の発生に重要ですが、温暖化でこれが止まると酸素が海洋に行き渡らなくなります。噴火による地下由来の栄養素の増加、二酸化炭素の増加による光合成促進効果が植物プランクトンの増殖につながり、有機物が循環の悪い海洋の底にたまって酸欠状態を悪化させます。先に述べたように、メタンは海中や大気中で酸素を消費します。
マグマの到達でシベリアの地中の有機物層からガスとともに放出された灰も海底に降り積もり、低酸素状態をつくるとともに有害物質を海中に持ち込みます(文献20)。

大気中の酸素濃度が減少した結果、ペルム紀の終わりには海面レベルでも現在の標高2700メートル地点に相当する酸素濃度、そして三畳紀初期の濃度は現在の標高5000メートル以上に相当する程度しかなかったと推定している報告があります(文献33)。この時期は高温だけでなく、酸欠もいろいろな生物の生存を脅かしたのです。
酸素不足は特に海洋で深刻になります。浅い海での酸素を呼吸に使う生物の生存を困難にし、温暖化とのダブルパンチはペルム紀/三畳紀境界での絶滅減少をよく説明できる(文献35)とされています。しかし、なかには低酸素状態については異なった見方もあります。海洋の低酸素状態を示す証拠は限られた場所から得られたにすぎず、この状況が地球上の全域に広がることはなかったため、低酸素はペルム紀/三畳紀境界での急激な大量絶滅の原因となりえないとするものです(文献10)

ペルム紀最後の大量絶滅のあと、温暖化と酸欠状態は三畳紀に入ってからもその程度は変動しつつも、長く続いた跡が得られています。温暖化は地球上の生物の生息域を緯度の高いほうへ、酸欠は地上での高度の低い方へと追いやります。状況の緩和や生物側の環境適応により、生物の種類、数、生息域はゆっくりと回復しつつ、またその間に時として絶滅の多い時期も迎えながら三畳紀は続きました(文献2、36、37)。

【2】三畳紀/ジュラ紀境界の大量絶滅


そして訪れたのが三畳紀を終わらせることになった、2億140万年前の三畳紀/ジュラ紀境界の大量絶滅。この絶滅もビッグファイブのひとつです。


[ 図3 ] 三畳紀後期~ジュラ紀初期のパンゲア大陸とCAMP(中央大西洋マグマ分布域)

この時期にもおこった大規模噴火


この時もペルム紀/三畳紀境界と同じような大規模噴火がおこりました。その活動によりできた巨大火成岩岩石区は中央大西洋マグマ分布域(Central Atlantic Magmatic Province、CAMP)と呼ばれています。その規模はシベリアトラップより大きく、知られている中で最大のものです。現在の北米、南米、アフリカの各大陸(これらはまだくっついていました)の700万平方キロメートル以上の広大な面積を玄武岩質マグマがおおったとされています(文献38)。2億140万年前に噴火が始まり、溶岩噴出の場所を変えながら400~600万年もの間、活動を続けた結果だと報告されています(文献39、40)。激しいメインの噴火はかなり短い間に限定されていた可能性もあり(文献14)、その凄まじい噴火の影響が温暖化や海洋の酸性化となってあらわれ、大量絶滅につながったということが、そのタイミングから推測されています(文献14、41)。また、ここでもメタンの放出があったのではないかとされています(文献41、8)。

絶滅の程度を詳細に知るのはこの時期でも非常に困難です。絶滅の程度は貝類などの海洋生物の化石情報からが中心になるのはペルム紀/三畳紀境界の場合と同じで、その様子からビッグファイブのひとつとされています。しかし、大型植物の化石の情報からは明確な絶滅は得られていません。四足の脊椎動物については極めて断片的なデータしかなく、限られた時期の中での影響を知ることはできていません(文献8)。足跡の化石がこの時期になくなっているという報告は以前からあるものの、これはかなり限られた情報であり、これをもって絶滅があったとは結論できないのです。
一般には絶滅の程度を知るにはある限られた地層についての集中的な探索とこれまでに発表されている報告中のデータを集めて推測するのですが、“濃縮された”絶滅の証拠が集まってしまう可能性があります(文献8)。

大量絶滅はそれまでの生態系の様相を大きく変えます。複雑な要素がからむ地球環境の大きな変動にともなっておこるもので、その原因や出来事の進行の様子を正しく把握するのは大変困難です。ビッグファイブ以外にもさまざまな程度の絶滅が幾度も繰り返されています。地球の歴史の中ではこうした環境の変動に多くの生物が翻弄され消えてゆく反面、その大規模な異変は新たな種類の生物の繁栄につながる舞台を提供することにもなります(次回の話題)。

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【3】大量絶滅の様子を伝える同位体元素比の情報


同位体元素を調べることにより、恐竜の体温を推定できることは以前に紹介しました(話題15)。
過去の地球環境を知るうえでも、化石を含む地層から得られるさまざまな情報の中のひとつとして、同位体元素の情報は貴重な手がかりを提供してくれます。今回紹介した内容にかんする研究では多くが同位体元素量の測定結果を用いています。その原理を紹介します。実際には補正が必要であり、異なる方法から得られた結果同士がきっちりとは合わないことが多いのです。

放射性同位体を用いた年代測定法


まず、地層の年代の決定です。
ここでは放射性同位体元素の量の測定が活躍します。放射性同位体は周囲の環境とは関係なく、一定の速さで自然崩壊して他の元素に変わってゆくため、これを時計として利用できます。太古の年代測定も崩壊の半減期が長い同位体を使って調べることができます。

例えば岩石が高熱のもとに形成される際、気体として抜けてしまうアルゴン(Ar)は最初そこには含まれません。その後、その岩石の中ではアルゴン40(40Ar)がカリウム40(40K)の自然崩壊によって生じ、閉じ込められます。40Kの半減期は12.5億年、一方の40Arは安定同位体で崩壊はおこりません。そこで岩石中の40Kと40Arの量比を知ることにより、その岩石誕生後の年代を計算できます。これがカリウム-アルゴン法(K/Ar法)の原理です。これを改良したアルゴン-アルゴン法は、サンプルに中性子を照射して40Kを39Arに変換し、これと40Arの量比を求めるというものです。文献12のシベリア大噴火の時期の推定はこの方法でおこなっています。

文献9、文献13ではウラン-鉛法(U-Pb法)が年代測定に使われています。ウラン238(238U)は自然崩壊を繰り返し、44.7億年の半減期をかけて鉛206(206Pb)になります。またウラン235(235U)は半減期7.0億年をかけて鉛207(207Pb)になります。この二つの鉛はともに安定同位体です。年代測定のためには、同じ年代の地層からウラン含量の異なるサンプルを得て、鉛とウランの同位体量比の測定結果を比較、その地層ができた時期をさかのぼって求めます。

安定同位体を用いた過去の炭素循環の変動の検出


同位体元素を用いた気候を推定する方法としては、まず当時の環境中で炭素がどのように循環していたかを知るための炭素同位体元素の存在比の測定があげられます。
炭素のほとんどは安定同位体である炭素12(12C)で、ごく少量の炭素13(13C)も安定に存在しています。植物が光合成によって二酸化炭素を取り込んで炭水化物を合成する際には優先的に12Cを利用します。これは炭素の固定(同化)をおこなう酵素の性質によるものです(同位体の質量差による植物体内での拡散の微妙な違いもほんのわずかだけ関係します)(文献42)。光合成によって固定された炭素も多くは植物や植物からの食物連鎖に含まれる動物に由来する有機物の酸化によってやがて大気や海洋に放出されますが、固定された炭素(有機物)が地下に埋もれる分もあります。この埋もれてゆく分が蓄積してゆけば、盛んに光合成が進むことによって地表の12Cに対する13Cの存在比は次第に増えるほうに向かいます。一方、地下に埋もれていた有機物が地表にあらわれて酸化されていくと(例えば、人類がおこなっている化石燃料の燃焼)、13Cの存在比は逆に小さくなるほうに向かいます。
炭素の循環はその環境が比較的閉じられた状態なのかどうかなども含めた多くの要因が複雑にからみ、その全貌をつかむのは困難ですが、13Cの存在比の大きな変化はその環境での炭素の循環に大きな変化があったことを表わします。
実際の測定では、サンプル中の13C存在比は標準物質中の存在比と比較したδ(デルタ)13Cという値として算出します(文献42)。デルタ13Cは13C量が多くなるとプラスのほうに、少なくなるとマイナスのほうにシフトします。ペルム紀末期にデルタ13Cの値は急速にマイナス方向に向かい、三畳紀になっても増減の変動が続き、なかなか安定していません(例えば文献5、9、10)。

酸素同位体を用いた過去の気候の推定


酸素は原子量16の酸素16(16O)がメインです。酸素同位体を用いた古気候の推定にはサンプルに含まれる少量の酸素18(18O)と16Oの量比を測定します。18Oを含む水(H2O)は16Oを含む水よりも少し重いために大気中への蒸発量が少なくなります。そのため寒冷期では成長する極地の氷に大気中の水が取り込まれ続け、結果として海水中の18O含量は高くなります。逆に温暖化が進むと、氷の中に長い期間蓄積されてきた18O量の少ない水が融け出して海洋に流れ込み、海水の18O含量は低いほうへシフトします。炭酸カルシウムやリン酸塩鉱物からなる殻をもつ小さな海洋生物は周囲の海水の酸素原子を殻の形成に使います(文献43)。こうした殻の化石を分析し、当時の海水温を推定します。炭素同位体を使う方法と同じく、デルタ18Oの形で表示します。炭酸カルシウムの殻からはデルタ13Cを求めることもできます。

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【4】現代は6度目の大量絶滅期? 


人類誕生以降、多くの生物種が絶滅しています。狩猟の時代から始まり、農業が営まれるようになり、やがて工業社会が発展してくるにつれ、人類がもたらす生態系、地球環境への影響は加速度的に大きくなってきました。
現代はビッグファイブに続く6回目の大量絶滅の時代に入っているのか、という懸念に対する最近の報告のひとつが2016年の文献44です。地質時代の限られた期間のうちに75%の生物種が消滅することを過去のビッグファイブと同等の大量絶滅と考えます。推定によると、すでに絶滅した動物種の数を見る限り、全体の規模としては現在のところビッグファイブの域には達していない。しかし、進行している絶滅のスピードはビッグファイブと同じようなレベルか、それ以上だという結論です。したがって、このままでは将来確実に6度目の大量絶滅の域に達してしまうということになります。特に現在絶滅が危惧されている動物が消滅した時点で危機は極めて大きくなるという予想です。
生物多様性がこれ以上著しく失われたような世界の到来は大変な脅威です。

【5】現代の温暖化と海面上昇について


人類社会の活動による環境変化は多面的です。例えばその一部である温暖化は今後非常に長期にわたって影響を及ぼし続けることになります。このまま温暖化が進んだ先がどうなるかについては、これまでの地球の歴史上におこったことを知っておくことは重要です。なにしろ、過去にはメタンの海洋や大気への放出までがあった可能性が高く、地球全体で大きな環境異変が将棋倒しのように続いたのですから。

現在はメタンハイドレートが最近の温暖化によりすでに不安定化しており、温暖化加速の危険性があるという報告があります(文献45)。海中のメタンは直接大気に触れることにならないだろうという見方もあるのですが(文献46)、東シベリア沖の海水の分析結果からは、メタンハイドレート由来と考えられるメタンが海中から大気中に放出されているのだろうと考えられます(文献47)。
限られた地域での数日間の海水や大気の組成、温度の変動を観察した結果では、メタンは冷却効果も示しうるという報告もあります(文献48)。光合成の増大による二酸化炭素吸収効果のためであると考えられているのですが、ある条件下での一面をみているだけですから、地球全体の長期的な予測に直ちにつながるものではありません。
温暖化によって予想されていた海流停滞へ向かう傾向が日本海で確認され、低酸素化がおこりつつあるという報告(http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h24/pdf/slide/A-1002slide.pdf)もあり、今後さらに注視してゆく必要があります。

工業社会の開始以後、温暖化作用をもつ二酸化炭素の量は確実に大気中で増加し、またこれが海洋に溶け込むことにより、海水がもっている緩衝作用にもかかわらず、酸性化は進みpHが下がってきています(IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の第5次報告書(第6次報告書は2018年発表の予定):概要版http://www.env.go.jp/earth/ipcc/5th/pdf/ar5_wg1_overview_presentation.pdf)。
温暖化にともなう海面上昇はこれまでの予想をこえるスピードで進んでいます。工業化以前と比べて2100年に5℃の気温上昇を許すようなことがあれば、海面の上昇は1.2メートルになると予想されます(文献46)。一方、温暖化ガスによるエネルギー放出をこの半分を切る程度、すなわち温度上昇を2℃以下に抑えることができれば、海面上昇は20数センチメートルから80センチメートルという予想です。この文献46の内容はIPCCの報告や米国政府による地球温暖化に関する報告(CSSR)で採用されています。
問題はさらにその先があることです。温暖化効果をもつ二酸化炭素が極めて安定であり、著しい温暖化が進む状況が続けば海面上昇はその先、より厳しいものとなり、世界中の海抜の低い地域全ては常時の水没に至るまでもない前に、高波、津波、海岸線の浸食におびやかされることになります。

海面上昇の高さを入力できる地図のサイト: http://geology.com/sea-level-rise/

海抜の低い土地が水没してゆけば、気候の過酷さに加え、工業地帯であった地域からは種類も量も膨大な有害物質が海洋に流れ出る問題も出てきます。現在でもプラスチックの微小な粒子による深海生物の体内にいたるまでの汚染が憂慮されているような状況です。
海岸線近くには多くの原子力発電所や関連施設も含まれてきます。そのような状況が近づいても、世界中の使用済核物質がまだ冷却が必要なものは冷却を続け、跡地からは完全に撤去され、そして今は候補地探しも進まない最終処分地では10万年もの間、決して外界に漏れることのない放射性物質の隔離方法が確立し、作業が完了できているものなのでしょうか。
未来を見据え、後戻りができないことを考慮した対応が必要であるといえます。



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