恐竜の話題(論文紹介): (34) 恐竜の新しい系統関係の提唱

2017年3月31日金曜日

(34) 恐竜の新しい系統関係の提唱

新しく提唱された鳥盤類、竜盤類、獣脚類、オルニソスケリダの系統関係、そして新しい恐竜の定義

 

恐竜の進化はまず鳥盤類と竜盤類に分かれて始まったというのがこれまでの解釈でした。2017年3月発表の論文(文献1)で、この図式を改めようとする考えが発表されました。

これまでの系統関係


鳥盤類(Ornithischia)は恥骨が後ろ向き、竜盤類(Saurischia)は鳥類に近い仲間を除いて恥骨は前向きという特徴があります。鳥類の恥骨は後ろ向きであり、鳥盤類の名前はここに由来します。竜盤類の中で鳥類に至る経路にはティラノサウルスも属する獣脚類(Theropoda)のグループがあり、ヴェロキラプトルなどにみられるように、その進化の一部で恥骨が後ろ向きに変化して鳥類のタイプになっています。また、ディプロドクスなど、雷竜(かみなりりゅう)として親しまれている首の長い竜脚類(Sauropoda)の恥骨は前向きであり、獣脚類とともに竜盤類のグループを形成していました。
恐竜はその類縁関係から鳥盤類と竜盤類に大別される、つまり、鳥盤類と竜盤類は互いに姉妹群(共通の先祖を持つ、最も近い類縁関係にある二つの分類群)であることがこれまでの恐竜の系統樹の根幹をなしているわけです。

ここで、新しい系統関係の紹介の前に次の二つの恐竜のグループについて、簡単に解説しておきます。

竜脚類とその先祖からなる竜脚形類


ひとつはディプロドクス、アパトサウルスなどが属している竜脚類とその仲間についてです。竜脚類はその多くがジュラ紀に繁栄しており、長い首と尾、そして小さな頭部が特徴で非常に巨大な体をもつ草食恐竜です。このような典型的な体をもつ以前の、より小型の恐竜とともに竜脚形類(Sauropodomorpha)というグループを構成します。

ヘレラサウルスとその仲間、ヘレラサウリダエ


もうひとつはヘレラサウルスとその仲間です。恐竜進化の初期の恐竜であり、その系統関係における位置については諸説が出されてきました。最近では獣脚類またはその前の進化の段階に位置すると一般には考えられるようになっていました。ヘレラサウルスの仲間は多くはありませんが、ヘレラサウリダエ(Herrerasauridae、ヘレラサウルス類 )と呼ばれます。

新しく提唱された系統関係


(※この項は最後の【追記】もご覧ください)
さて、今回の論文(文献1)で提唱された新しい系統関係です。


まず、鳥盤類と獣脚類が互いに姉妹群の関係となり、オルニソスケリダ(Ornithoscelida)という新たなグループを形成しています。また、これまでの竜盤類の定義が解消され、竜脚形類がヘレラサウリダエとともに新しく定義し直された竜盤類のグループを形成します。そして、恐竜の進化の最初の段階で分かれるのが、オルニソスケリダと新定義の竜盤類であり、両者は姉妹群の関係となるのです。オルニソスケリダという用語は以前に別のグループの定義に使われていたもので、これも再定義されたことになります。

今回の再検討に使われた分類群の数は74種であり、これらの457種類の特徴の関連付けによって得られた結果です。対象となったのは恐竜の誕生前から恐竜時代の初期に生存していた分類群で、地質時代の期間としては中生代の三畳紀初期からジュラ紀初期に至る間です。系統樹の根元の部分の変更により、この記事の図のように、その先に広がる中生代中期から末期までの恐竜もその配置の大きな部分がこれまでのものと入れ替わっています。

恐竜の定義


「恐竜はトリケラトプス、現生鳥類、そしてこれらの最も新しい共通の祖先とその全ての子孫からなる」

これは話題1で紹介した、これまでの系統樹をもとにした恐竜の定義です。図の中の黄色い丸印が最も新しい共通の先祖の位置にあたります。
共通の先祖とその子孫の全てを含むグループをあらわす用語のクレード(clade)を用いると、文献1に記載されていますが、この定義は次のように表現できます。

「恐竜はPasser domesticus(イエスズメ)とTriceratops horridus(トリケラトプス)を含む最小範囲の構成メンバーのクレードからなる」

「最小範囲の」という記述が必要であるのは、イエスズメとトリケラトプスを含む、もっと広い範囲のクレードを他にいくつも指定することができるので、これと区別するためです。

今回、文献1の研究グループが提示している新しい恐竜の定義は次のようになります。

「恐竜はPasser domesticus(イエスズメ)、Triceratops horridus(トリケラトプス)およびDiplodocus carnegii(ディプロドクス)を含む最小範囲の構成メンバーのクレードからなる」

新しく提案された系統樹ではイエスズメとディプロドクスだけで定義できるのですが、これからの研究の進み具合によっては新たな展開があるかもしれません。一般に受け入れられる樹形の詳細が変わることがあっても、あるいは別の樹形を主張する研究者がいても、今後ともゆるぎないと考えられる部分をもとに共通に使えることを目指した定義です。

新たに提唱された恐竜の進化の道筋から見えてくること


今回の系統関係の構築のためのデータ処理にあたっては、これまでのような竜脚形類と獣脚類による姉妹群の形成は無理が大きい一方、鳥盤類と獣脚類が姉妹群となって構成する新しいオルニソスケリダというクレードはその推定結果についての信頼性に対する検証テストに十分耐える確かなものであったということです。鳥盤類と獣脚類には明らかな共通の特徴が21種確認できました。他にもオルニソスケリダ内の限られたメンバー内に共通すると思われる特徴もあるのですが、この時代の化石情報の不十分さがあり、系統関係の詳細は今のところ結論づけられない箇所も多いようです。

新たに提示された今回の系統樹は、最近の恐竜進化の様子についての推測の中で再考すべき点があることを示しています。
例えば羽毛の進化です。獣脚類だけでなく、鳥盤類の一部にも羽毛があることから、恐竜進化の初期段階に羽毛の発達が始まり、多くの恐竜のグループの体表には羽毛関連の構造があるかもしれないという考えが出ていましたが、新定義の竜盤類にはこれを支持する証拠は今のところ見つかっていません。恐竜の2大グループの一方は羽毛の発達とは無関係であった可能性があります。
また、恐竜は最初は動物食性(肉食性)であり、その後に植物食性(草食性)、雑食性のものがあらわれたと一般には考えられています。しかし、歯の形態をこの系統樹のパターンに合わせると、雑食性の先祖からの進化が推測されます。
さらに、古大陸の中で恐竜があらわれたのはゴンドワナ大陸ではなく、もう一方のローラシア大陸である可能性や、そのあらわれた時期が中生代三畳紀の中でこれまで考えられていた時代よりももう少し早くなる可能性があります。

恐竜進化の道筋の大きな変更を求めるこの仮説についての検証にもとづく評価に注目です。
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【追記】2017年12月1日
Baronらによって発表されたこの新しい説に対し、同じ年(2017年)の11月には、従来の考えを基本とする系統関係を支持する論文が発表されました(文献2)。この論文では、鳥盤類と竜盤類が分岐する前に獣脚類へ進む経路が分岐したという、以前に出されたことがある説についても検討の価値があることに触れています。
一方、Baronらはこの指摘に対応し、オルニソスケリダの正当性を改めて確認する新たな系統樹を作成したのですが、そこではヘレラサウリダエが恐竜のクレードの枠の外で分岐しています(文献3)。上で示した図には早くも元の著者たちによる変更が入ってきました。
初期の恐竜についての化石の情報はかなり限られているため、系統関係の推定が大変難しいことがわかります(話題39参照)。
系統樹は作成する方法の違いにより、形だけでなく、正確さや解像度に違いが生じます(文献4)。Baronらが用いた節約法だけでなく、ベイズ推定(話題20)を使った系統樹作成でも分類群としてのオルニソスケリダを支持する報告は出されています(文献5)。

この記事の最初の図は最も簡単に描いた恐竜の系統樹です。ヘレラサウリダエの位置は入っていないため、Baronらの系統樹は彼等による2017年11月の変更前後で変わりはありません。

文献1:Baron, M. G. et al. (2017). Nature, Vol. 543, 504 (2017).
文献2:Langer, M. C. et al. (2017). Nature, Vol. 551, DOI:10.1038/nature24011.
文献3:Baron, M. G. et al (2017). Nature, Vol. 551, DOI:10.1038/nature24012.
文献4:Puttick, M. N. et al. (2017). Proc. R. Soc. B, Vol. 284, 20162290.
文献5:Parry, L. A. et al. (2017). R. Soc. Open Sci., Vol. 4, 170833.



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