恐竜の話題(論文紹介): (9) ディノニクスの翼は獲物を地上で羽ばたいて抑え込むために使われた? タカのように?

2015年10月11日日曜日

(9) ディノニクスの翼は獲物を地上で羽ばたいて抑え込むために使われた? タカのように?



大きなかぎ爪があるヴェロキラプトルやディノニクス(ともにドロマエオサウルス類に属する恐竜)は空を飛ぶ能力はなかったと推測されるものの(注:ただし、この記事の最後もご覧ください)、羽毛とそして翼を持っていました。今回は彼等の翼(前肢)が何に使われていたかに関する話です。

そのカギとなるかもしれないと考えられたのが、後肢の指の形態です。現生の鳥類でも爪を含めた指の形と行動との関係は、かつてはあまり詳しく調べられていなかったのですが、肉食(雑食を含む)の鳥類の指の形態に対して、獲物の捕り方によく合った分類ができるという報告が2011年に出ました(文献1)。指同士の相対的な長さや爪の曲がり具合を測定したところ、タカ、ハヤブサ、フクロウ、ミサゴ、コンドル、スズメなどに代表されるいくつかのグループに分けることができるという結果が得られました。指先の形態から恐竜の狩りの行動パターンが推測できるかもしれないということで、次に翼と羽毛を持つディノニクスの化石の測定結果をこの現生鳥類の結果と比べてみたのです(文献2)。
ドロマエオサウルス類は内側(体に近い側)から2番目の指のかぎ爪が著しく大きく、足跡からみて、この指は普段は地面に着いておらず、上に持ち上げた格好であったとされています。ディノニクスはタカのグループに近く、2番目の爪が巨大な分、その形態の一部の進化方向に飛びぬけたところに位置するという結果が得られました。
タカは地上で獲物を上から押さえつけて仕留める際に、さかんに羽ばたきをします。獲物をつかんで飛び上がろうとするのではなく、肢の爪で獲物の行動を抑え込んでいる際に体のバランスをとるためです。その様子は次のサイトでご覧になれます。この記事の下にある文献2(オープンアクセス)の引用サイトの中にあるビデオのURLです。
http://journals.plos.org/plosone/article/asset?unique&id=info:doi/10.1371/journal.pone.0028964.s002
http://journals.plos.org/plosone/article/asset?unique&id=info:doi/10.1371/journal.pone.0028964.s003
ディノニクスも翼を使って同じような狩りをしたかもしれない、そしてその時の羽ばたきがやがて飛翔にもつながる新たな体の進化につながったのではいかというのです。

後肢の2番目の指にある巨大なかぎ爪は、獲物を切り裂いて襲う機能があったと思われていました。これを検証するため、2006年に水圧で動かせるかぎ爪のモデルを使った実験が行われました(文献3;このモデルの攻撃を受けたのは屠殺したばかりのブタ)。その結果は切り裂き効果は低かったというものでした。むしろ、この爪は樹木などに登るためのフックとして使われていたのではないかという説明が出ました。しかし、文献2の著者たちは、文献3のモデルは正しい形態で再現されていないとしています。それでも文献2の著者たちは、2番目の指のかぎ爪が獲物の切り裂きではなく、フックとしての効果があることには同意しています。ただし、木登りではなく、梃(てこ)の原理で獲物を押さえつけるのに有効であったと考えています。

爪の形と行動様式を直ちに結びつけることへの警鐘があります(文献4;ここでは文献2とは違い、爪の曲がり具合にのみ注目)。動物の運動能力が深く関係する行動様式は、体全体の形態、大きさ、体重、周囲の環境、それに狩りであれば獲物の違いなど、様々な要因が重なった中で行われているため、体の構造の一部だけを取り出して結論を出すのは危険であるのは当然です。
そのうえで、翼をもつ恐竜が狩りの時にタカのような振る舞いをした可能性と飛翔との関連に思いを馳せ、中生代の光景を想像してみるのは面白いものです。関連があったとしたら、どちらの機能も互いに影響しながら発達していったのでしょう。

なお、文献5ではディノニクスの幼体は、前肢の骨格の形態と予想される体重から、飛翔能力があった可能性を指摘しています。鳥でもクイナの仲間には幼鳥では飛べるものの、成鳥になるとその能力を失うものがいます。

文献1: Fowler, D. W. et al. (2009). PLoS ONE 4 (11) e7999. DOI: 10.1371/journal.pone.0007999.
文献2: Fowler, D. W. et al. (2011). PLoS ONE 6 (12) e28964 DOI:10.1371/journal.pone.0028964.
文献3: Manning, P. L. et al. (2006). Biology Letters Vol 22, 110.
文献4:Birn-Jeffery, et al. (2012). PLoS ONE 7 (12) e50555. DOI: 10.1371/journal.pone.0050555.
文献5:Parsons, W. L. and K. M. Parsons (2015). PLoS ONE 10 (4) e0121476. DOI:10.1371/journal.pone.0121476.


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