恐竜といえば、その多様で派手な姿がひとつの大きな魅力です。
とても目をひくのは、多くの恐竜の背中側にみられる構造物。
例えばハドロサウルスの類(カモ竜)の肥厚したり、大きく張り出した突起を持ったりする頭部(上の図)、ステゴサウルスの類(剣竜)の板、アンキロサウルスの類の甲冑のような分厚い皮膚とその尻尾のハンマー状の先端、トリケラトプスの類(角竜)の角とフリルなどはそれぞれ大変特徴的です。
こうした構造物は何に使われていたのでしょうか。
それぞれの恐竜のグループに特徴的な構造物は、そのグループ内でもその形態が様々に変化したものがあります。まるで似た者同士の中でも、他との違いを際立たせるため、新規さを競っているように見えます。
たとえば下の図を見てください。トリケラトプスなどの角竜の頭部の形の一覧です。
この図は下記URLサイトにあるopen contentです。(Danny Cicchetti, modified by User:MathKnight)
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Ceratopsidae-skull-comparison-with-legend.jpg
2011年にこの点について、ひとつの説が出ています(Padian and Horner)。
まず、こうした目立つ構造物は恐竜に近い爬虫類のワニにはみられません。恐竜が進化する中でできてきたのだということです。また鳥は雄特有に飾りものの羽が発達した種が多いのですが、恐竜の場合のこのような目立つ構造についての雌雄の差というものが、今のところ、はっきりとは見出されていません。ですので、この構造物がもっぱら雄が雌にアピールするために使われていたのだという説明には無理があるという主張です(たとえ、こうしたことにも使われていたとしても、それが構造物の進化のメインの原動力となっているとは考えにくく、本来の使い道は別にあるはずというわけです)。
では、他にはどんな使い道があるかというと、例えば外敵や同じ仲間同士との戦いの際の防御や攻撃に使うということが考えられます。しかし、実際の構造物はバラバラな形態の方向に向かう傾向が著しく、こうした機能面での選択圧がかかっていないのではないかと著者達は考えます。
ステゴサウルスでは背中の板状構造は防御装置と最初は思われていましたが、実際には強度があまりなく、身を守るにはそれほどは役立たなかったのではと考えられるようになっています。また、この板は放熱に使われるという説もありますが、他の剣竜では血管がこの板の中にまで伸びてきてはいないようです。そしてこの場合でも、この構造物の形態のあまりの多様性はちょっと説明しにくい。
この論文で著者達は、これらの構造物は種の識別に使われていた、つまり、似たもの恐竜の中から本当の仲間を視覚的に区別するために発達したという説明をしています。これが形態の多様性を最も簡単に説明できると言っています。
そうだとしても、進化のうえでの恐竜のこうした形質の選択が行われた順番としては、例えばトリケラトプスの角とフリルなどはやはり最初は威嚇や攻撃、防御の手段として進化しつつ、やがて種の識別のためにも使われるようになり、さまざまな形態へ発散していったのかもしれません。著者の論文はこれを否定しているものではありません。
それに上の図にあるような角竜の微妙なバリエーションの違いまでが実際に種の認識方法として、視覚的に効果があったかどうか? 色についてはわかりませんが、視覚的には体の大きさのほうがまず目につき、あわせて臭覚などのほうがよほど大事だったかもしれません。そうであれば、微妙な形態の違いまでは機能的にあまり重要でなかったため、その範囲内で自由にいろんなバリエーションが出やすかったということを反映していることになるでしょうか。
一部の微妙な多様性については、同種内の成長段階の違いなどを別種と判断してしまっている可能性もあるのかもしれません。
恐竜の背側の構造物にも関連する別の、かなり奇妙な面白い説が出ています。次回に紹介してみます
今回の引用文献:Padian, K. and J. R. Horner (2011). J Zoology Vol 283, 3.
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