恐竜の話題(論文紹介): (43) 鳥類の卵の色の起源は恐竜時代

2018年12月8日土曜日

(43) 鳥類の卵の色の起源は恐竜時代

ラマン分光法で卵殻色素の獣脚類中での単一起源に迫る


 

色や模様つきの卵を産むのは鳥類の特徴のひとつです。その色は恐竜(非鳥類恐竜)の進化のうちに生じて、現在の鳥類に受け継がれていることが確かとなってきました(文献1)。

鳥類の卵の色は赤褐色のプロトポルフィリン(protoporphyrin)と青緑色のビリベルジン(biliverdin)という、ともにテトラピロールという有機化合物に属す2種の色素の沈着によってつくられます。鳥の母体中での卵殻形成の際に、この2種の色素の有無や量的な組み合わせによって色が決まります。ビリベルジンと比べて水に溶けにくいプロトポルフィリンは殻の表面の一部にスポット状にとどまりやすい性質があり、模様を形成することもできます。

今回の発表をおこなった研究グループの一部は、その前年の2017年にオヴィラプトル類(獣脚類の中のマニラプトル形類)の卵殻の化石の抽出物から分画をおこない、質量分析の結果、プロトポルフィリンとビリベルジンの両色素が含まれていたこと、その卵の色が元は深い青緑であったとすでに報告していました(文献2)。

今回の報告(文献1)はより多くのサンプルに対してラマン顕微分光装置を使った分析をおこなった研究にかんするものです。ラマン分光による分析は、サンプルに照射した光が分子内の原子の振動などと相互作用した結果、波長がより長く、あるいは短くシフトした散乱光が生じることを利用しています。このシフトの特有のパターンから分子内構造を特定することが可能です。得られるシグナルの強さから定量もできます。
ラマン分光による鳥類の卵殻中のプロトポルフィリンとビリベルジンの同定は2015年に報告されました(文献3)。この方法は化石化によってタンパク質から生じてしまう色素をもともとの卵の色素からも区別できます(文献4)。文献1の報告ではサンプルの卵は複数の恐竜(非鳥類恐竜)の化石12種の他、現生のワニ、鳥類も含み、殻の表面、断面における分布の調査にも手を伸ばしています。
プロトポルフィリンとビリベルジンと同定できる22本のラマンスペクトルのバンドのパターンからサンプルの卵殻の色を割り出した結果、現生鳥類を含む有色の卵は獣脚類の進化の中で生じたのであり、鳥盤類のマイアサウラや竜脚類のティタノサウルスなどの卵はワニの卵と同じく、この2種の色素をもっていなかったということがわかりました。トロオドン類に属する恐竜の卵には、色合いが異なったものや色素を失ったものがあるという多様性もみられます。卵の色の減退は鳥類の中でも起こっています。

この論文の著者たちは卵の色の出現が巣の形態の変化と関係があるのではないかという点に注目しています。ワニのように卵が完全に土砂や植物材でおおわれた状態から、獣脚類の中には巣の上部が開放され、親が抱卵をおこなうようにになったものが現れました。調査した12種の恐竜の中で、有色卵を産むことがわかったオビラプトル類のヘユアンニア(Heyuannia)は開放型の巣を作る獣脚類としても最も基盤的な進化の道筋に位置します。卵が露出することにより、その色や模様が親の行動を誘発したり、外敵から目立ちにくくするカモフラージュなどの機能を果たすようになったのではないかと考えることができます。


文献
1:Wiemann, J., et al., (2018). Nature, Vol. 563, 555.
2:Wiemann, J., et al., (2017). Peer J, Voi. 5:e3706; DOI: 10.7717/peerj.3706.
3:Thomas, D. B. et al., (2015). J. Exp. Biol., Vol. 218, 2670–2674.
4:Wiemann, J. et al., (2018). Nat. Commun., Vol. 8, DOI: 10.1038/ncomms14952.





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