恐竜の話題(論文紹介): (13) 象も大型恐竜も暑いのは苦手 体の大型化はオーバーヒートとの闘い

2015年11月14日土曜日

(13) 象も大型恐竜も暑いのは苦手 体の大型化はオーバーヒートとの闘い


動物の体が巨大になると、どんなことが起こるのでしょう? 大きな体であれば得することもたくさんある一方、やっかいな弱点も生み出します。
体重を支えるしっかりした体のつくりが必要。食料もたくさん要る。いろいろあるのですが、まず日々の活動で考えないといけないのが、暑い時には熱がこもってしまうということです。
体が大きくなるにつれて、体積に対する表面積の比が小さくなるので、外気温が低い時は体から逃げる熱を少なくできるのでよいのですが、外気温が高いと体内で生じる熱をなかなか外に逃がすことができません。暑い時に活発に活動すると、オーバーヒートで命の危険にさらされることになります。


大きなワニほど体温が安定


文献1はワニの体の大きさと体温の変動の関係についての理論を、実際の測定の結果と比較して確認したものです。最後には仮想の巨大ワニを恐竜にみたてて、その体温を推測しています。
ワニの体温を測るため、水晶振動体を持つ温度計を使用しました。振動の周波数が温度依存性であることを利用した小型で感度のよい温度計からのシグナルを無線で取得し、記録してゆくのです。32 kgから 1トン(大きい!)までの11匹の飼育されているイリエワニにこの温度計を仕込んだニワトリをエサとして食べさせて体温の測定を行いました。
ワニは外温性の動物(変温動物)。ですから、小さい個体は気温の変化にともない、体温も容易に変化しますが、大きな個体になるほど外気温の変化による影響は小さくなります。これが実際の体温測定ではっきり示されました。1トンのワニは大変安定しています。

一方の体温を予想する計算は、ワニの体形、内部構造(熱伝導性が内側と外側で異なると仮定)、行動パターン(水の中にいたり、日向ぼっこしていたりする時間に昼夜と季節の変化を取り入れる)などを考慮して行いました。この理論で11匹のワニについての実測と合う体温を算出できることを確認した後、計算上での体のサイズをさらに増やしてみました。これらの巨大仮想ワニは外気温による変化を受けることなく、サイズが大きくなるほどに体温も高くなります。著者たちは恐竜が生理も体の形も行動も外温性のワニと変わらないと仮定すると、10トンの恐竜は夏(11匹のワニの体温を測った現代のオーストラリア、クイーンズランドの地で)には摂氏36度、冬でも31度の体温を安定して保てるという結果を出しています。
恐竜が外温性(変温)であったか、内温性(恒温)であったかについては論争があり、別の機会に紹介したいと思いますが、巨大な恐竜は外温性であっても、活動のための十分な体温が得られていたということ、そして巨大化が進むほどに、むしろオーバーヒートしないような配慮が必要になったに違いないとこの報告は述べています。

次の文献2は、大きな体をもたらすオーバーヒートの可能性にかんして、内温性の哺乳類であるゾウから恐竜についての推定をおこなっています。 

夏場の炎天下、ゾウも大きな恐竜も暑さ対策なしでは活動できない


アジアゾウの場合であれば、摂氏31度の夏場の熱帯地方で日光にあたりながら4時間もぶっ続けで歩くと、致死的な温度まで体温が上昇すると計算されています(文献2)。歩行に使うエネルギーを生み出すために代謝が盛んになり、その分、熱がより多く体内で生じるのですが、外気温と体温の差が小さく、おまけに日光によって体表面が熱くなるような条件では、体の大きなゾウでは熱の放出がうまくいかなくなってしまうのです。

この文献2では、アジアゾウと同じくらいの体格の恐竜であるエドモントサウルスについても同じ条件での体温上昇を推測しています。やはりいろんな仮定のうえですが、エドモントサウルスが代謝が盛んな内温性の動物であったと考えた場合でも、あるいは、あまり代謝が盛んでない外温性の場合(以前のデータから内温性より30%低い代謝をこの恐竜に想定)であっても、ゾウと同じように熱帯の日差しの中では連続4時間近くの歩行は体温の上昇で死をもたらすという結果です。さらに皮膚が一般の爬虫類のようであったとすれば、日光からの熱をいっそう吸収しやすいので、1時間も歩くことができそうもないのです。

エドモントサウルスは移動性と考えられ、北は当時のアラスカにまで生息域が広がっていたものの、南は赤道に近い地域で生活をしていたようで、オーバーヒートの危険性から無縁であったとは思われません。それにエドモントサウルスよりも大きな恐竜はいくらでもいました。体が大きいほど、この問題は深刻になります。真夏に長時間歩き続けることはほとんどないとしても、かなりの運動量をともなう行動をとると、これによって上昇した体温を下げるのは大変であったことでしょう。

しかし、日差しがまったくない夜に活動するならば、はるかに長時間の連続歩行も計算上できることから、大型恐竜は夜行性であれば、体温維持に関しては熱帯の気候に適応しやすいということがいえます。実際には夜行性を支持する証拠も否定する証拠もないようですが、ともかく巨大恐竜たちは熱がたまりにくいような行動をとったはずであり、それに加えて熱対策のためのなんらかの体の仕組みももっていたかもしれません。
ゾウは水浴びができるよう、水辺の移動経路を好むそうで、動物園でも夏場は水浴びが欠かせません。エドモントサウルスの尾の形態からは、この恐竜は泳ぎが得意とは考えられないものの、水場近くの場所を好んでいたらしいという以前の報告に著者たちは注目しています。

動物が巨大化するほどに体積当たりの表面積が低下し、体の中から外への熱放出が難しくなるという宿命が、体の大きさの限度を決めるひとつの要因にもなりうるのです。

次の話題14、話題15では恐竜の体温の推定について、そして話題16では恐竜中温動物説について紹介します。


文献1: Seebacher, F. et al. (1999). J Exp Biol Vol 202, 77.
文献2: Rowe, M. F. et al. (2013). J Exp Biol Vol 216, 1774.

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