竜脚類とその仲間を含む竜脚形類の巨大化を可能にした体のしくみ
地球の生命の歴史上、最大の陸上動物といえば、中生代に棲息していた竜脚類(Sauropoda)の恐竜です。巨大化を可能にした体のしくみをリンウーロン、インゲンティア、レデュマハディの発見を含む最新の報告を交えてお伝えします。
巨大な竜脚類恐竜の大きさはきわだっています。アルゼンチノサウルス(Argentinosaurus)の仲間には骨格の一部からではあるのですが、体長40メートル近く、体重100トン近いと推定されているものもあります(文献1、2、3)。ただし、一般に骨格からの恐竜の体重推定結果はどのような方法を用いるかによって、かなり変動します。ともかく、竜脚類は何十トンもの体重をもつものが多い中、数トン程度のものは数が少ないのです(文献4)。今回はこうした巨体をもつものが多いグループが進化してきた背景を探ってみます。竜脚類の首はなぜ長いかという話題17に続く話題です。
巨大化を可能にした竜脚類の体のしくみ
地上での体の巨大化を可能にした竜脚類の体のしくみは古くから研究の対象となっています(文献5、6)。わかってきたことを列挙してみます。互いに深く関連することがらが多いのですが、ここでは7つの項目にまとめてみました。
(1)植物食(草食)
これほどの巨体を維持するためには、獲物を狩ったり、死肉を探さないといけない動物食(肉食)よりも植物食(草食)であるに限ります。もちろん植物もいつも同じ場所に行けば必ず手に入るわけではありませんが、より安定的に手に入れることができるエネルギー源です。いったん巨大な成体にまで成長すれば、体格的に劣る動物食恐竜の攻撃をあまり心配することもなく、一日のうちの多くの時間を食事そのものに割くことができます。現在の象に近い立場です。
(2)長い首、長い尾
長い首は竜脚類の体形の最大の特徴です。長い首の保持は四つ足の胴体から伸びる、これまた長い尾とバランスをとることによって可能となります。できるだけエネルギーを節約しつつ、多量の食べ物となる植物を口にすることができるという、長い首のもたらす利点については話題17をご覧ください。
体が大きくなるにつれ、体内で発生する熱を体表面から放出するのが難しくなります(話題13)。巨体にはこの暑さ対策の問題がつきまといます。細長い首は冷却効果をもたらした可能性もあると考えられます(文献7)。
(3)小さな頭
竜脚類の長い首を可能にした理由のひとつに、頭部が体全体に比べて大変小さいということがあります。植物を歯ですき取ったり、切り取ったりしたあとは次々と飲み込むため、頑丈な顎(あご)が不要となり、頭部を小さくできたのです。これは咀嚼のための複雑な並びをもつ歯(話題36)、顎の骨格、その顎を動かすための筋肉を発達させたハドロサウルス類の恐竜などとは異なる進化の方向です。巨体の維持に必要な多量のエネルギーをとるためには、咀嚼に時間をかけるよりは、ともかくまず多くの植物を飲み込み、巨大な胴体部分にある消化器官で微生物の助けを借りて発酵させるほうが有利だったのでしょう。
(4)空洞をもつ骨格
空洞部分をもつ骨を含気骨(がんきこつ)と呼びます。私たちの頭骨内部の副鼻腔(ふく びこう)はその代表です。哺乳類では含気骨は通常、頭骨にのみ見られますが、鳥類は肺につながる気嚢(きのう)が入り込む空隙をもつ含気骨を胸や腹をもっています。空隙があるために気骨性の骨は体の軽量化につながります。恐竜の中では、鳥類を含む獣脚類の他に竜脚類にも含気骨があります(文献8)。竜脚類の首、胴体、そして尾の椎骨にみられる含気骨は巨体を軽くするのに役立っていました。
(5)効率の良い呼吸の可能性
気嚢と連絡している鳥類の肺では専用の吸気口と排気口が別々にあるため、常に一方向のみに気体が流れるという効率の良い呼吸ができます。鳥類を含む獣脚類とは別の進化の道を歩んだものの、竜脚類にも気嚢があったと考えられています(文献8)。竜脚類が鳥類と全く同じシステムをもっていたかどうかはわかりませんが、気嚢の存在は巨大な体内に効率良く酸素を取り込むのに役立ったはずです。次に述べるように、高い成長速度を得るための高い代謝速度が必要です。ここで気嚢は大きな役割を果たしたと考えられます(文献9)。なお、この呼吸システムは体温を下げる効果も期待されます(文献10)。
(6)小さく生まれて早く成長
話題27でも触れましたが、巨大な竜脚類もその卵の大きさはせいぜいダチョウ卵と同じようなレベルでした。そもそも、あまりに巨大な卵の形成とその産卵には難があります。限られた数の大きな卵を産むかわりに小さめの卵をより多く産みっぱなし、そして生まれた子供はとてつもない成長速度でもって、できるだけ早くに体を大きくして外敵に襲われる期間を短くしていました。
竜脚類の骨にみられる血管が良く発達した跡をともなう線維層からなる部分は高い成長速度の証拠です(文献11)。骨の横断面に1年ごとの成長を示すと考えられている同軸の輪として残る一時的な成長停止線(LAG、line of arrested growth)の集まりは、絶えず成長していたらしい竜脚類ではあまり見られず、その成長速度の推定は困難です。このことを念頭において、最大の成長速度は年に数百キログラムに達し、極端な例としてアパトサウルスの場合には年に2トンを超える推定値が報告されています(文献12)。高い成長速度を実現するのに必要な活発な代謝も、竜脚類に属する恐竜が鳥類、哺乳類ほどではないが、周囲の気温より高い体温を保つことができたのだろうという報告(話題15)から可能であったと推測できます。体重当たりの成長速度では、竜脚類も鳥類には及ばないのです。
(7)柱のように直立した4本足の姿勢
2足歩行よりも4足歩行のほうがより大きな体重を支えるのに適します。さらにこの時、それぞれの足が曲がってかがんだ姿勢(恐竜の足はトカゲのように体の左右の側面には張り出してはいませんが)になるよりは、体から真っ直ぐ下向きに伸びているほうが足の筋肉に負担がかかりません。巨大な竜脚類の4本の足はまさに建築物の柱のように直立しています(この記事の最初の図の中では、ブラキオサウルスとディプロドクス)。4足歩行と直立については、最近の報告とともに後で再び触れます。
その他の外的要因として、たとえば二酸化炭素量の増加で食物の植物によるエネルギー生産量が増えたという説があります。しかし、中生代の二酸化炭素量の時代による変動と竜脚類の巨大化を追った結果からは両者の直接の関係はみられないとされています(文献5)。それでもエネルギー獲得における植生の変化による影響がからんでいた可能性はあります(文献13、14)。問題はなぜ竜脚類にのみ著しい巨大化が起こったのかということです。上に説明した竜脚類、そしてそれ以前の先祖からの体のしくみにかんする進化の積み重ねがあってのことだったのでしょう。断片的ながらいろいろな証拠から、その体のしくみがあらわれてきた様子が明らかになってきました。
[ 図1 ] 竜脚形類の系統
巨大恐竜の代表的なグループ、新竜脚類
巨体を誇る竜脚類恐竜の多くが属する一群のグループが新竜脚類(Neosauropoda)です(図1)。新竜脚類にはディプロドクス(Diplodocus)、アパトサウルス(Apatosaurus)が属するディプロドクス類(ディプロドシダエ、Diplodocidae)、そしてラペトサウルス(Rapetosaurus)、サルタサウルス(Saltasaurus)が属するティタノサウルス類、さらにその他にカマラサウルス、ブラキオサウルス(Brachiosaurus)、アマルガサウルス(Amargasaurus)などそうそうたる巨大恐竜のメンバーが含まれます。
このような巨大恐竜を生み出した竜脚類はどのような先祖から進化したのでしょうか。
竜脚類とその仲間を含む竜脚形類グループ
進化の様子をさかのぼり、証拠が得られているいくつかの時点から眺めてみることにします。
竜脚類(Sauropoda)はその出現の前に分かれた分類グループとともに竜脚形類(Sauropodomorpha)というより大きなグループを形成します(図1)。ごく最初の頃の竜脚形類は体長が1メートルを超える程度の2億3千年前の三畳紀後期の地層から見つかったパンファギア(学名Panphagia protos)のように、首は長めなものの、2足歩行の小柄な恐竜でした(文献15)。歯の特徴からは、完全なる植物食性ではなく、雑食性であったと考えられています。
竜脚類に属さない竜脚形類のうちで、最も知られている恐竜は三畳紀後期のプラテオサウルス(Plateosaurus)でしょう(文献16、17)。大きなものでは体重が4トンにおよぶ化石も見つかっています。かつてはこの恐竜が2足歩行か、4足歩行かについての論争が続いていました。3Dデジタルによる再現モデルを使った研究から、プラテオサウルスは2足歩行であり、4足で歩くには支障のある骨格構造をしていると考えられています(文献17)。
リンウーロン ~早くから巨大化を遂げた新竜脚形類がいたことが判明
竜脚類以外の竜脚形類恐竜はジュラ紀の前期のうちに姿を消してしまいます。しかし、残った竜脚類はジュラ紀後期までに、さらに首が長い形態をともなう体の巨大化を遂げただけでなく、種類も豊かなグループへと拡大しました。これらの中の主なグループが先ほど述べた新竜脚類です。
新竜脚類はジュラ紀後半のうち、その初期以降にパンゲア大陸に拡散したと考えられてきました(文献18、19)。しかし、2018年7月には、それよりも古いジュラ紀中期初頭にあたる1億7千4百万年前に棲息していたリンウーロン(学名Lingwulong shenqi;発見地にちなんだ ”霊武(リンウー)の奇妙な竜” の意味)という新竜脚類が見つかりました(文献19)。部分的な骨格から推定されるこの個体の大きさは全長10メートルを超える程度でしたが、新竜脚類の中のディプロドコイデア(Diplodocoidea;これはディプロドシダエDiplodocidaeを含む、より大きなグループです)と呼ばれるディプロドクスの仲間に属することがわかりました。新竜脚類がこれまで考えられていたよりも1500万年も古くから現われていたのです。
注目すべきはその発見の地が中国、寧夏(ねいか)回族自治区ということです。この地域を含む東アジアは早くからパンゲア大陸から切り離されたために新竜脚類が入り込めなかったと考えられていました。この報告は、この地でこれまでで最古の新竜脚類恐竜が発見されたということだけでなく、新竜脚類の誕生の地は未だに不明としても、このグループの恐竜がパンゲア大陸に由来する各地に広がったことを考慮すると、東アジアの棲息領域の隔離の時期の再検討が必要であることも示しています。
インゲンティア ~巨大化に向かった竜脚形類恐竜 ---- 新竜脚類の出現以前、三畳紀にすでに他でもみられた大型化
最初にのべた巨大化を可能とした体のしくみは、こうした新竜脚類を中心とする典型的な巨大恐竜の出現までの間に獲得されてきたものです。ところが、最近のいくつもの研究は、より広い範囲の分類グループである竜脚形類の恐竜たちに巨大化へ向かう傾向がより古くからすでに備わっていたことを明らかにしています。
2018年7月にはレッセムサウルス類(Lessemsauridae)という竜脚形類の1種、インゲンティア(学名Ingentia prima;”最初の巨人”)の発見が報告されました(文献20)。発見場所はアルゼンチン北西部の2億年前を少し超える後期三畳紀の地層。現在知られている初期の竜脚形類よりも3千万年ほどしか経っていないのですが、長さ10メートル、体重が10トン近くと推定される大きな体をすでにもっていたのです。インゲンティアの仲間から新竜脚類が進化したわけではありません。新竜脚類に直結する進化の経路以外でも巨大化が独立に、しかも三畳紀のうちにおこっていたことを示しています。
それではインゲンティアはどんな特徴をもっていた恐竜だったのでしょうか。
骨の内部にみられる成長線から、成長の最中でも成長が遅くなる時期があったことがわかりました。巨大竜脚類ほどの成長速度をもつ段階にはなかったことになります。首もまだそれほど長くはありません。前足とこれを支える骨格部分は典型的な初期の竜脚形類のもので、後足の付け根に続く腸骨の形も後の巨大竜脚類のものとは異なっており、柱状の形態をもつ足ではなかったことが明らかです。これまで新竜脚類にみられる巨大化に必要と思われていた体の特徴がまだそろっていなくとも、ここまでは大きくなれたことがわかります。この報告で注目したのは椎骨の含気性です。インゲンティアでは、鳥類に似た呼吸システムは初期の竜脚形類のものに比べてより発達していた可能性があり、この恐竜の巨大化への歩みはこの点が重要であったのではないかと論文の著者たちは考えています。
レデュマハディ ~竜脚形類恐竜それぞれの歩行パターンを調べると
インゲンティアの報告に続き、翌月の2018年8月にも新しい竜脚形類の報告が出ました(文献21)。
ジュラ紀初期のこの恐竜、レデュマハディ(学名Ledumahadi mafube、発見の地である南アフリカのソト語で”大いなる雷鳴”の意味)もレッセムサウルス類(Lessemsauridae)のメンバーに分類され、今回の限られた箇所の化石は体重約12トン、年齢14才くらいの成体の一部のものだろうとみられています。ジュラ紀初期としては最大のものです。
首の長さは今回の化石からは不明です。では、足の伸び方のほうはどうなのでしょうか。化石として残っていた前足の尺骨、後足の大腿骨の形態は全ての竜脚形類に共通の特徴をもつため、柱状の足ではなかったはずです。
この個体の体重の12トンというのは、4足陸上動物の足の骨付け根部分の周囲の長さから求める推定方法にもとづくものです(文献22)。さらにこの論文では、一般に前足の上腕骨、後足の大腿骨、それぞれの最も細い分部の周囲の長さの相互関係が、その動物の歩行が2足によるのか、4足によるのか、どちらであるかの判断の目安に使えることを恐竜、現存の哺乳類、その他の4足動物のデータから見出しています。ここで注目している歩行のパターンとは、食事中のゆっくりとした挙動の中にみられるようなものではなく、しっかりと距離を移動する際のものです。レデュマハディの前足と後足の骨は4足歩行を示唆するものでした。一方で、論争の続いていたプラテオサウルスの場合は、現在の解釈に合う2足歩行に当てはまる結果が得られています。ごく少数の例外を除いて、各種竜脚形類の歩行パターンは比較的明瞭にどちらかに区別でき、2足歩行から4足歩行への移行はかなり一気に進む進化の過程であったといえます。
首の進化と前足の進化が連鎖
ジュラ紀初期の竜脚類への移行期の恐竜とみなされているアンテトニトルス(Antetonitrus)は4足歩行であるものの、曲がった前足とその足先で食物となる樹木をつかみ、さらにこれに体重をかけてもたれることもできたようです(文献23)。
同じくジュラ紀初期のプラネサウラ(Pulanesaura)も移行期の竜脚類とみなされるのですが、こちらはより直立した柱状に近い前足をもっていたと考えられています(文献24)。プラネサウラでは、同時に首の柔軟性が高くなっていました。前足が大きな体重を支えるという役割に専念する一方で、食事の際には前足の助けを必要としない、長くて柔軟性に富む首で食べ物の植物を口にすることができるよう、首と前足の進化が連鎖していたという説明ができます。
このようにして、最初にあげた7つの項目の要件がそろっていなくても、いくつかの要因の組み合わせや新しい機能が加わることで巨大化へ向かうことが可能であったとわかってきました。巨大化への歩みは恐竜全体の大きな発展が始まる三畳紀/ジュラ紀境界の大絶滅(話題39)の前にもおこっていたのです。竜脚形類が早くから持ち合わせた体のしくみがもたらした進化の特徴であるのは間違いなく、このグループの中の進化経路のあちらこちらで巨大化が独立して起こりえるお膳立てができていたことが想像できます。
文献
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