恐竜の話題(論文紹介): (6) 骨は体ごと丸呑み?

2015年9月19日土曜日

(6) 骨は体ごと丸呑み?



骨は豊富な栄養源


骨は肉食動物にとってミネラルを多量に含む大切な食べ物です。肉食の哺乳類だけでなく、爬虫類のワニや肉食の鳥も獲物の骨を食べて栄養補給をします。

恐竜もきっとそうだと想像できるのですが、化石として得られる大型の肉食恐竜の腹の部分や糞便からは未消化の獲物の骨がほとんど見つかっていないので、肉食恐竜が大型の獲物となった恐竜の骨をバリバリとかみ砕いて食べたという直接の証拠はないといいます。肉食恐竜に食べられた跡がある骨格の化石をみても、骨から肉をそぎ取った跡やガブリと一発かみついた跡はあっても、これを歯でかみくだいて食べた跡は見つからないのです。
恐竜は骨を食べることはあまりなかったのでしょうか?

HoneとRauhutは2010年にこのような説明をしています(文献1)。
肉食恐竜も骨を食べていたはず。ただし、生きている他の恐竜を獲物にする場合、おもに狙うのは成体ではなく、幼体やまだ若い恐竜だったはず。恐竜の胃の中は酸性度が高かったようで、まだ十分に発達していない骨がいったん胃の中にはいると消化が進み、見つけにくいという可能性はあるのです。
すなわち、恐竜は子供の数が多いが、捕食されるために生存率が大変低い。大型の恐竜は、この危険な時期をやりすごして成長すれば、やたらめったら獲物となる可能性は少なくなるという推測です。これは現生の被食動物でもよく見られる戦略ですが、この対極にある動物が、例えば少なく産んで親が大切に育てるという哺乳類のゾウなどです(肉食獣に怯える原始時代の人間もそうでした)。

また、小さい種類の恐竜や、幼い恐竜を食べる時は丸呑みしていたのではないかといいます(実際に各部分の骨格がそろった若いイグアノドンがバリオニクスの腹から見つかったことがあります)。
大きく成長した草食(植物食)恐竜が肉食恐竜に食べられるのは、おもに弱った個体や死体となった場合であった(つまり、肉食恐竜はスカベンジャー(掃除屋さん))のでは、というのです。この場合には、食事中に相手の太い骨で自分の歯を痛めないよう、うまく肉を骨からはぎ取って食べていたと推測される、こすったような跡が食べあとの骨に残っています。
アロサウルスやティラノサウルスが自分と同じくらいか、それよりも大きな草食恐竜、しかもとても元気でバンバン反撃してくる個体を襲う様子がよくCGで作られていますが、もしもこの推測が正しければ、そんな光景は結構まれであったというになってしまいます。実際はどうだったのでしょう。

もちろん、死体あさりの証拠だけでなく、成体の恐竜が襲われた証拠も残っています。襲われた草食恐竜が逃げおおせて、その後に治癒している化石があるのです。噛みついた肉食恐竜の歯が体に残ったまま化石となった草食恐竜の骨格標本もあります。ただ、この時にポロッと歯がとれたのは、もともとこの歯が抜け落ちそうになっていたからではないかとこの二人の研究者は説明しています(恐竜の歯は定期的に抜け替わるのです)。肉食恐竜は無理して歯を痛めるような行動はあまりしなかっただろうと考えています。

ティラノサウスの噛む力


なお、ティラノサウスの仲間は強大な歯と顎(あご)を持っていますが、顎の構造から判断すると、大きな骨を食べるためにかみ砕く動作は肉食哺乳類と比べると下手であり、また、その他の肉食恐竜は体が大きいものでも、成体の骨を相手にするには歯が貧弱すぎるという、それまでの報告をこの論文では引用しています。しかし、その後にBateとFalkinghamは、ティラノサウルスの頭部により多くの筋肉がついたモデルが妥当として、噛む力について再検討しました。そして、それまでに推測されていたよりはるかに大きな35,000 ~ 57,000 N (ニュートン)という値を奥歯1本あたりに算出しました(文献2)。この力を重量キログラムに換算すると、奥歯1本あたり、3,600 ~ 5,800 kgf(3.6~5.8トンの質量が受ける重力(正確には地上で))となり、すごい値です。
ちなみにこの推定方法をアリゲータ科のワニと人間に適応してみると、実測値 [ アリゲータ:9,800 ~ 13,000 N (1,000 ~ 1,300 kgf)、人間:700 ~ 1,020 N (71 ~ 104 kgf)] に近い値を得ることができたと述べています。この人間の最大値は多分記録的なもので、平均的には50 kgfくらいであるようです。

文献1:Hone, D. W. E. and W. M. Rauhut (2010). Lethaia 43, 232-242.
文献2:Bates, K. T. and P. L. Falkingham (2012). Biol Lett doi:10.1098/rsbl.2012.0056.



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