話題(19) はオビラプトロサウルス類に属する恐竜の尾の付け根付近の骨格構造の違いが雌雄差をあらわしているのではないかという話でした。その構造の違いから、この恐竜が鳥類と同じように尾を使って求愛ディスプレイを行っていたかもしれないということも推測されたのです。
しかし、一般に動物の行動については物理的痕跡そのものが化石として残ることは期待できないようなものが多く、見つけたとしても、その痕跡の解釈には大きなあいまいさがつきまとうと思われます。
2016年1月に発表された論文(文献1)は、まさに恐竜の求愛行動によってできたのではないかと考えられる痕跡にかんする興味深い報告です。
米国コロラド州にある白亜紀中期の露出した地層にあるコロラドサンドストーンのいつくかのサイト(3つは州の西部、ひとつは北部の州都デンバーの近く)には、指先の跡が残るような引っかいて地面を削った跡がいくつも集中して認められます。750平方メートル内に60近くものそのような跡が残っている所もあります。よく使われる特定の場所があったようなのです。
引っかきによる削り跡は、明らかに恐竜の中でも後足で2足歩行する肉食恐竜が中心となる獣脚類によるものであり、その大きさや深さは一定ではありません。恐竜の体の大きさや、行為の継続の程度の違いが反映されているようです。大きな跡は長さ2メートルにもなり、大型の恐竜の行為であったからこそ、こうしてはっきりと地面に刻まれた跡が岩石化した後に残ったのだといえます。繰り返しの引っかき跡は深く、両足によって刻まれたものが並んでおり、通常の歩きや走りでできるものではありません。
地上に営巣する鳥類には地面をひっかく求愛行動をおこなうものがいること、そして進化上、鳥類は獣脚類の中から現れたとみなされていることから、この求愛の行動は中生代の恐竜たちの生活の中で出現したのではないかと推測ができます。鳥類に認められているこうした行動は、直ちにその場所が巣になることがなくとも、婚姻成立のための儀式として立派な意味があると考えられています。巣作りする意思を持っていること、またその技量があることを相手に示すという手段になっているはずなのです。
しかし、この地面の引っかき行為が求愛以外の目的で行われていた可能性はないのでしょうか?
文献1ではこれが儀式であり、実際の巣作りの行為でないことを支持する証拠として、巣の化石で確認されているような周囲の盛り上がりなどの形状が確認できない、サイズや深さがバラバラであるなどの点を挙げています。他には、水を求めての穴掘りにしても、水に行き当たった場合には指先跡が消えるはず、そして縄張りのためのマーキングにしては密集しすぎているうえ、有効性を高めるために哺乳類が行う尿による匂いづけは水分をあまり使わずに尿酸を排泄する鳥類、爬虫類では報告がないなどと説明しています。
ある場所では体長2.5メートルまでの個体と5メートルまでの個体によると推定される削り跡が近接して残っている例もあります。二頭は別の種類の恐竜なのか、あるいは同種の成長段階が異なる恐竜かはわかりませんが、鳥類で知られているように、先輩の行動を近くで学習するようなこともあったのかと想像してしまいます。
可能性が取り沙汰されていた恐竜の求愛行動の初めての物理的痕跡にかんする報告です。今後の調査がまだまだ必要ではあります。こうした行動には鳴き声によるコミュニケーションも加わっていた可能性があるとも考えられています。
文献1:Lockley, M. G. et al. (2016). Sci. Rep. 6, 18952; doi: 10.1038/srep18952.
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2016年4月3日日曜日
(21) 恐竜の求愛行動の証拠? 地面に残された引っかき跡
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