抱卵、さらに孵化後の育児もおこなっていた恐竜もいた
爬虫類では母ワニが地中に埋めた卵と孵化後の子ワニを守ります(エサやりまではしないのですが)。鳥類となると、親は孵化までは抱卵をおこない、その後もヒナが独りでエサが採れるようになるまで面倒をみます。
ワニよりも新しく地上に現れ、後に鳥類へと進化した恐竜はどのような卵とのかかわり方をしていたのでしょうか?
恐竜の化石として見つかるものの中には本体だけでなく、その卵や巣もあります。卵の化石標本から恐竜は産卵から孵化までどのような状況にあったのかを調べる研究がなされています。
一般に卵の殻は外界と内部の物質の行き来を完全に遮断するものではなく、微小な穴をとおして水分、酸素、二酸化炭素などが出入りできるようになっています。土などに卵を完全におおわれた状態にある爬虫類の卵よりもよりも、巣の中で空気にさらされた卵を親が抱く鳥類の卵のほうがより水分が通りにくい構造をしています。土の中は湿度が十分ですが、巣の中でむき出しで産卵する鳥類は卵からの水の蒸発をできるだけ防ぐ必要があるためと考えられています。
オーストラリアに棲息するキジの仲間であるツカツクリは抱卵をしないかわりに腐葉で塚を作り、その内部に卵を埋め込んで葉の発酵による熱で卵を孵すのですが、その殻は他の鳥の卵と比べると水分の通りがよいという特徴があります。また、爬虫類のヤモリの多くは外気に触れる形で産卵するためにトカゲやヘビよりも乾燥に強くなっています。卵が外気にさらされているかどうかで、水分の通りやすさの程度が違うのです。
では恐竜の卵はどうか? 化石となった卵の殻の微小な穴の直径や数を調べところ、ほとんどの恐竜の卵は爬虫類の卵に近いというものでした。多くの恐竜は地中、あるいは何らかの巣の部材でおおわれた形で卵の時期を過ごし、孵化を迎えたようだと推測できます(文献1)。
しかし、鳥類に近いとされているオビラプトルやトオロドンの化石の中には巣の上に成体が乗っている例が見つかっています(文献2,3)。鳥が抱卵しているのと同じ格好で巣とともに化石になったりしているのです(突然の災難が降りかかり、この恰好が固定されたまま化石化したのです)。恐竜の中には卵をほったらかしにするのではなく、卵を守ってもいたらしいのです。
そこでトロオドンの卵の化石の形態と構造をより詳細に調べたところ、この恐竜の卵の水分透過性は他の多くの恐竜とは異なり、鳥類の卵に似ているとの結果が出ています。トロオドンの卵は土などに完全に埋められるのではなかったようです。むき出しの形で巣の中に産卵された卵を親は抱いていたと推測できるのです(文献4)。
さらに孵化後も親恐竜が世話をしていたのではないかと考えられる証拠も見つかっています。モンゴルと日本による中央アジアでの共同探索では、大規模な自然の猛威により唐突に砂に埋もれてしまったと考えられるプロトケラトプスの巣といくつもの幼体が一緒になった化石が発見されました。これら幼体の骨の発達はまだ十分ではないことから、独り立ちせずに孵化後もまとまって巣にとどまっていたということになり、そのことから親が養育していた可能性が高いのです(文献5)。
恐竜には子育てをするものがいたのではないかというところで、次回はオスが育児にかかわっていたらしいという話についてです。
----- つづきは その2 へ
文献1:Deeming , D. C. (2006). Palaeontology Vol.49, 171.
文献2:Norell, M. A. et al. (1995). Nature Vol.378, 774.
文献3:Varricchio, D. J. et al. (1997). Nature Vol.385, 247.
文献4:Varricchio, D. J. et al. (2013). Paleobiology, Vol.39, 278.
文献5:Fastovsky, D. E. et al. J. (2011). Paleontology, Vol.85, 1035.
Copyright © Ittoriki __All rights reserved.